http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/45553
少し前までは郊外で多く見かけていた「コメダ珈琲店」。最近は駅近くや都心部でも見かけるようになってきた。
店舗数拡大の勢いは留まることを知らず、2015年11月末時点で全国657店舗に達している。
「コメダ」と聞けば、名古屋の喫茶文化の代表格というイメージもある。
だが、考えてみれば昔から喫茶店はあったし、なにも名古屋に限ったものではない。
「モーニング」のサービスを実施する喫茶店も多い。
?では、なぜコメダは全国へと拡がり、飽きられることなく“コメダファン”を増やしているのだろうか。
「店舗をどれだけ増やしても、“コメダもどき”は絶対につくらない」──。
?店舗展開のポリシーをこう語るのは、臼井 興胤(うすい・おきたね)社長だ。
ナイキジャパン営業リテール統括本部長、日本マクドナルドCOO、セガ・エンタープライゼス社長を歴任し2013年7月1日にコメダの社長に就任した。
?約50年かけて本拠地・中京エリアで培った信頼、ブランドを損なうことなくコメダを全国展開することが、自らのミッションだと語る臼井氏に、「拡大」と「クオリティ」を両立する経営の秘訣を聞いた。
前後篇の2回に分けてお届けする。
店舗の顔は「コメダのひと」
?何を隠そう筆者も学生時代から通い続けるコメダファンの1人だ。
大抵、コメダに行くときには「コーヒー以外」の目的がある。
それは書き物などの作業だったり、モーニング目当てだったり、おしゃべりだったりと、さまざまだ。
?いくつかの店舗を利用してきて、いつも感じるのは、初めての店を訪れても「初めて」を感じさせないこと。
?木・漆喰・レンガの統一感、隣の席は気にならないが孤独も感じさせない計算されたパーテション、一度座ると離れられなくなるソファー・・・。
どの店舗でも、すぐに空間に溶け込める安心感がある。
要は、落ち着くのだ。客なりに店の回転数を気にしながらも、急かされないことについ甘え、1時間、2時間と長居してしまう。
?こうした、どこでも変わることのないコメダならではの心地よさは、店舗づくりが完全にマニュアル化、規格化されて いるからだと思うかもしれない。
だが臼井氏は、常に同じ店をつくっているわけではないという。
「やはり店舗による違いはあります。
全く同じ建物で、全く同じメニューを出していたとしても、結局は人のサービス。これに尽きます。
1店舗あたり30~50人ほどのスタッフがシフト制で働いていますが、スタッフによって“店の顔つき”が変わりますね」
?前述のように臼井氏はこれまで食品、ゲーム、スポーツ用品など、さまざまなジャンルのビジネスに携わっている。
どのジャンルにおいても、同じ環境で同じ商品を扱っていながら、その空間をリードする店長をはじめスタッフで売り上げが20%は変わるという。
?サービスは「ひと」が作り上げるもの、店舗を支えるのは「ひと」である、という考えがコメダの経営の根底にある。
常連客に育てられた、だから強い
?この基本哲学はやはり発祥地の名古屋で育まれたものと言ってよいだろう。
「社長に就任以来、2年半ほど名古屋に住んでいますが、東京と名古屋の一番の違いは、常連のお客様で成り立つかどうか、です。
?東京ならば1回きりのお客様だけでも事業は成り立つかもしれません。
しかし、名古屋の場合は、常連のお客様がいないと成り立たないのです。
?そうしたお客様は目が肥えていますので、些細なことで“他にも喫茶店はある”と思ったら離れていきます。
厳しい環境の中で、しのぎを削ってきたからこそ、コメダは強いのだと思います」
?実際、コメダ珈琲店の顧客の約7割の人が、平均で月に1回以上来店しているという。1日の平均来客数は400人ほど。
その400人の顔も、店舗の開店から年数が経つほど固定化されていくという。
名古屋の本社ビルにあるコメダ珈琲・葵店には、 1日数回来店する人もいるそうだ。
まさに、生活の一部だ。コメダ珈琲店の強さは、このリピーターの来店頻度の高さにある。
マニュアルを越えたところに人の心は動く
?常連客の高い満足感を保ち続けるのは、もちろん決して簡単なことではない。
「いつもの」で通用するなじみの店を持つ人は多いだろうが、コメダの「いつも」のレベルはかなり高い。
?例えば、ある常連客の定番は「冷カップのミルク多めのオーレ」